研究の概要

研究目的

本研究は、近代博物館揺籃期において博物館創設、初期文化財行政制度の構築に多大なる影響を及ぼした幕末維新期から続く好古家その活動および功績に関して考究することを目的としている。
近代博物館制度、文化財保護制度が、明治政府の号令一下、一夜城の如く、いとも簡単に創設されたかに見えるが、実際には近代以前の学問体系に裏打ちされた数多の好古家の協力と実践なくしては成就し得えるものではなかった点を掘り下げ、加えて、開国前後に彼らに影響を与えた外国人の存在があった事について、新たな観点から論及するものである。
従来の日本博物館史研究で顧みられなかったこの視点は、近代博物館形成史、文化財行政史のみならず、揺籃期における人文科学そのものの成り立ちを考える上で重要な研究である。

研究計画

①近世後期の「物産会」から、近代博物館制度・文化財行政の構築に到る歴史的・人的基盤を探る。

京都で山本亡羊・榕室が主催して近世後期に毎年のように開催された「読書室物産会」や名古屋で天保期に開催された「尾張名古屋博物会」など、日本全国の主要な都市で開催された近世後期の「物産会」において何が出品されたのか、国立国会図書館や三重県津市石水博物館、名古屋市東山植物園、岩瀬文庫などが所蔵する出品目録から、その全体像を明らかにし、近代初期の博覧会との関係性を具体的に見出す。それにより、近代博物館行政・文化財行政の礎となった歴史的事象が明らかにする。

②好古家蒐集古物資料の調査研究と国内における好古家ネットワークの研究を実施する。

明治前期の好古家の内、静嘉堂蔵松浦武四郎蒐集古物資料の未整理資料並びに松浦武四郎記念館所蔵古物資料に関する整理作業の推進並びに『静嘉堂文庫蔵 松浦武四郎蒐集古物目録』等に記録される該期の好古家が蒐集した古物の具体的な研究と付随する書簡、箱書き等を中心として幅広く幕末維新期における好古家同志のネットワークの詳細を明らかにする。すなわち、新出資料の評価を公にし、博物学的な情報に加えて、政治・社会に関する幅広い情報を収集することにより、近代博物館制度・近代文化財行政を準備するための知的・人的基盤について解明する。

③考古学的な観点からシーボルト父子がヨーロッパ各地に遺存させた日本の好古家との関連を示すコレクションに関して具体的な調査研究を実施する。

ヨーロッパにおける日本学の観点から、日本研究者としてP.V.シーボルト、H.V. シーボルト父子をとらえる。日本学は、文献学からスタートした学問であるため、「モノ」そのものの分析は不十分であることから考古学、民俗(族)学の観点でヨーロッパに伝存する好古家との関わりを伝える具体的な「モノ」の分析を実施する。シーボルト父子がヨーロッパに残した日本の好古家との接点を示す資料を分析することによって、資料の具体的な学術的評価と関わりのあった好古家の姿を具体的に示すことができる。

研究組織

研究代表者

内川隆志(國學院大學研究開発推進機構教授)

分担研究者

長谷洋一(関西大学文学部教授)
三浦泰之(北海道博物館学芸主査)

連携研究者

川村佳男(九州国立博物館主任研究員)
宮崎克則(西南学院大学国際文化学部教授)

研究協力者

イローナ・バウシュ(元東京大学大学院客員客員教授)
ダン・コック(ライデン国立民族学博物館主任研究員)
マティ・フォラー(元ライデン国立民族学博物館主任研究員)
伊藤大祐(國學院大學学術資料センターPD研究員)
堅田智子(上智大学文学部特別研究員)
鎌形慎太郎(國學院大學大学院文学研究科史学専攻博士課程前期修了)
阪本是丸(國學院大學神道文学部特任教授)
徳田誠志(宮内庁書陵部陵墓調査官)
成澤麻子(公益財団法人静嘉堂文庫司書)
山本命(松浦武四郎記念館学芸員)
山本哲也(新潟県立歴史博物館研究員)