(1)大蔵の所有者であるS家の来歴調査
S家は、もともと紀州藩の刀工であり200石の家督を得て紀州有田に移り住み、幕末頃に箕島から東京下谷を経て佐原に移住し陶器商を営んだ。大蔵は、明治15(1882)年頃地元の荒物屋の天満屋の蔵を購入し同家のものとなり、商売が栄え地元の名士となっていった経緯がある。これらの流れをもとに同家のルーツである和歌山県有田郡地方、東京下谷にその足跡を辿り、佐原に移住した経緯などについてその来歴を調査する。
(2)史料学/古文書調査
蔵内部は2階構造となっており、2階奥に置かれていた行李内には夥しい古文書が保管されている。その調査を実施し、商家として発展を遂げたS家の歴史を具体的な資料を基に明らかにする。
(3)考古学的調査
蔵内には紀の国屋が創業した明治時代からの陶磁器が多数遺存しており、これらについて考古学見地から時期別、産地別に分析を行い、加えて伝票などの文書記録からその流通について検討する。物質史料は、既に近年の考古学的調査によって近隣の地域中核都市である佐倉城下町遺跡や中央市場となる江戸遺跡出土資料の蓄積がある。一方、倉には膨大な陶磁器、漆器、金属器をはじめ多くの物質資料が確認されており、これらとの対比によって地域あるいは、広域物流の具体像およびその動態を明確化する事が可能である。江戸時代における地域物量拠点としての小野川流域の発展プロセスと近代以降、明治25年(1892)の佐原大火、明治31年(1898)年の鉄道開通、戦争などの社会・経済状況の影響に伴って当該地域に置ける商業活動がどのように変容するのかという点について解明する。
(4)建築史学調査
建物の子細な観察と史資料及びヒアリングなどをもとに、建築年代を探り、規模・構造・意匠・材料と工法とともに、創建以来の改変とその変遷を明らかにする。また、破損状況も調査し、今後の再生に向けた修復の検討をおこなう。