科学研究費補助金 基盤研究(C) 考古学 研究課題番号:25370894

「石鏃を中心とする押圧剥離系列石器群の石材別広域編年の整備」(大工原豊)

研究計画

概要

 関東地方・甲信地方は、縄文遺跡の調査事例が多く、精緻な土器編年網も整備されている。また、質の高い調査報告書も蓄積されている。そこで、この地域の石鏃を中心とする押圧剥離系列の石器群を対象として、黒曜石と在地石材を区別し、それぞれについて、技術形態学的分析を行い、型式の設定と広域編年網の整備を行う。対象時期は草創期から晩期までを対象とする。

 研究の方法は、①報告書を精査し、②一連の製作工程が把握できる代表的な石器群の資料化(データベースの構築)、③型式設定と編年案の構築を行い、④成果を公表する順に、各地域について同じ基準で実施する。また、一部の石材については、岩石学的分析を行い、産地を推定するための基礎資料を得る。完成した編年案とデータベースを公開し、縄文時代の研究基盤を充実させる。なお、研究が当初計画どおりに進まない時は既存の図化された資料を用いて、準じた成果とする。

 1.研究計画全体の流れ

本研究は、次の手順に沿って実施する(フローチャート図参照)。

①報告書の精査
 他時期の遺物の混在が少なく、かつ石器製作工程全体が把握できる遺跡・遺構単位での石器群の候補を選定する。

②候補遺跡の選定
 各県・各時期10~20石器群を選定する。

③調査・資料抽出
 石材ごとに抽出する。各県・各時期5~10石器群を抽出する。石材により入手場所・入手方法や原石のサイズ、材質(硬度・剥離の難易度)などが異なっていることから、用いられる技術や工程は一に差異が存在する。したがって、石材と技術の組み合わせは、型式設定の重要なので、これを念頭において調査を実施し、資料抽出する。

④資料化
 写真撮影・実測・計測、各石器群10~20点を資料化する。資料調査時の資料化は迅速に行う必要があるので、偏平な石器はCCD方式のスキャナーを用いて、写真画像を取り込む。また、立体的な石器は、長焦点法で撮影する。サイズと色調を補正する必要があるため、カラーチャート(Casmatch)を写し込む。実測は写真トレース法で行う。

⑤パソコン入力・データベース作成
 画像・色調補正、オートトレースによる実測図修正を行い、データベースを作成する(右図参照)。写真画像・実測図・計測値等を同時に掲載する方式のデータベースを基本とする。画像補整はPhotoshopを用い、色調補正する。実測図は作業効率を維持するため、オートトレース機能により仕上げる。ネットの検索(google等)で検索可能な汎用データベースを用いる。

⑥中間検討会資料作成
 北関東3県の1次編年案作成する。

⑦第1回検討会
 編年案の妥当性を評価し、問題点を抽出する。

*①~⑤のルーティンワークの実施(平成26年度・平成27年度)

⑧第2回検討回
 型式設定可能な石器群の抽出し、最終編年案について検討する。また、補足調査の必要性について検討する。

⑨補足調査・追加資料作成
 全地域対象とし、新たに確認・公開された良好な石器群を選定する。

⑩型式設定・編年作成
 型式名称の決定・編年表の埋まらない地域・時期の検討を行う。十分資料検討を行い、時期が確実な資料を用いて、石器群に対して式(Series Type)、個別器種に対して型(Tool Type)を設定する。特徴的な石器について石材ごとの編年表を作成する。また、石器製作工程ごとに石器をならべた工程配置図と、工程配置模式図も作成する。

⑪研究成果発表・データベース公開
 考古学協会研究発表会、独自の研究発表会を行い、成果を発表する。パンフレット形式の石器編年表と成果報告書を作成する。周知・活用をはかるため、関係各機関・研究・公開者等に配布する。データベースも併せて公開し、普及・活用を図る。

2.年次別の研究計画

平成25年度:群馬県・栃木県・茨城県を対象とし、①~⑤の研究項目を実施する。資料調査と資料化まで行う。年度末には本研究の遂行にあたって、障害となる問題点を抽出する。

平成26年度:埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県を対象とし、①~⑤の研究項目を実施する。また、⑥・⑦の研究項目を実施する。第1回検討回は前年度に資料化した北関東3県を対象として、1次編年案を作成し、問題点・検討課題を抽出する。
平成27年度:山梨県・長野県を対象として①~⑤の研究項目を実施する。また、⑧第2回検討回を開催し、前年度までに資料化の完了した関東7都県の資料について検討を行う。また、型式設定、編年案作成について検討する。そして、補足調査を行うべき事項を洗い出す。

平成28年度:石器型式の構築に必要な情報が揃わない場合には、追加する石器群を選定し、補足調査を行い、モデルの構築と検証を行う。最終的な型式設定を行い、編年を完成させる。そして、石器型式と土器型式の違いから明らかにされた縄文社会の構図とその意義について、研究発表を行う。データベースを公開し、本研究の成果を還元する。

3.研究組織

研究組織は以下とおりである。資料調査・検討回では対象地域の縄文土器と縄文石器、遺跡の実情に詳しい研究者を研究協力者として資料調査・検討会に参加してもらう。

研究分担 氏名 所属 担当分野
研究代表者 大工原豊 明治大学黒耀石研究センター研究員 研究全体を統括・石器検討
研究協力者 関根慎二 (財)群馬県埋蔵文化財調査事業団 石器群の時期確認(早・前期の土器)
櫛原功一 帝京大学文化財研究所研究員 石器群の時期確認(中期の土器)
林 克彦 石洞美術館学芸員 石器群の時期確認(後・晩期の土器)
小菅将夫 岩宿博物館館長 石器群の時期確認(草創期)・石器検討
芹澤清八 (財)とちぎ未来づくり財団 石器群の時期確認(草創期)・石器検討
宮坂 清 諏訪湖博物館学芸員 石器検討(主として長野県)
村松佳幸 北杜市教育委員会 石器検討(主として山梨県)
建石 徹 文化庁美術学芸課調査官 石器群の時期確認(中期)・黒曜石分析
中島啓治 群馬大学非常勤講師 石器石材鑑定